子どもを産む予定は今のところない。だけどいつか、自分の子どもに会ってみたい、という漠然とした思いがある。
自分の子どもに会ってみたい。これを言ったのはわたしの母だった。
母は子どもがあまり得意ではなくて(なのに、そのことに自分で気づかず昔は保育士になるつもりで勉強をしていたらしい)、それを知っていたからこそ、じゃあどうしてわたしを産んだの?という疑問が浮かんで、聞いたときに返ってきたのがこの答え。
自分の子どもに会ってみたかったから。
シンプルな答えだったからこそ、印象に残った。母はわたしと妹のふたりを産んで、無事(?)自分の子どもに関してはかわいい!と思ってくれたそうで、楽しく、ときに厳しく、ていねいにわたしたちを育ててくれた。
そんな母のことがわたしは大好きで、この人の娘に生まれてきてよかったと心から思う。母が自分の子どもに、わたしに会いたいと思ってくれて、よかった。
わたしは、わたしの子どもに、いつか会うのだろうか。
「夏物語」川上未映子
わたしが愛してあこがれてやまない、川上未映子さんの長編小説。
読書記録の最初は川上未映子さんの本にするって決めてた。ふふ。
以下、文庫本裏のあらすじを引用。
読書感想文や本の紹介、というつもりではなく、読書の記録なので、わたしが印象に残った部分や思ったことをただ思いのままに書いていこうと思う。
物語の主人公・夏子は、わたしの母と同じ思いを持っていた。
自分の子どもに会いたい。
もともと大好きな川上未映子さんの読み応え抜群の長編小説とあって、もちろん読むつもりではいたけれど、あらすじを読んでこの言葉が目に入ったとき、ぐっ、と、なにか引き寄せられるような、不思議な感覚を覚えた。
読まなくては、読んでいいのか、読むべきなのか、読みたくない、読みたい。
よく分からない葛藤で心がざわざわして手に取ることができず、発売されてからずいぶん経って文庫本が発売されたころ、ようやくこの小説を読むことができた。
読んでいる間は楽しさの中に苦しみもやっぱりあって、だけど読み終わったとき、この本に出会えてよかった、と、心から思った。
主人公は小説家の独身女性・夏子だけれど、物語の中には夏子だけでなくさまざまな境遇の女性たちが出てくる。
それぞれの立場や置かれている状況、考えに、涙が出るほど共感することもあれば、今まで想像もしたことがなかったとはっとさせられたり。
第一部、夏子の姉・巻子の娘である小学生の緑子が、ノートにたくさん書き記している言葉たち──身体の変化に対する不安や嫌悪、貧乏な母子ふたり暮らしの中で水商売をしながら自分を育てる母への思いには、何度も涙が出た。特にぐっときたのはこの文章。
そして物語が第二部に進むと、冒頭、夏子が酔っぱらって書いたメモが出てくる。
この夏子の思いが物語の主軸になっている。
自分の子どもに会いたい。性行為ができない夏子は精子提供による人工授精について調べ始め、さまざまな人との出会いを通じて自分の思いと真摯に向き合っていく。
最後は読みながらずっと嗚咽するくらい号泣していた。
夏子が選んだ道が正しいのか、正しくないのかなんて、だれにもわからない。
ただ彼女は、たくさん考えて、悩んで、言葉にして、ぶつかって、知って、励まされて、うちのめされて──そうやって、自分で道を選んだ。
そのことにわたしはなんだか救われた心地がしたし、わたしはわたしの人生を、道を、これからもたくさん考えて、悩んで、言葉にして、ぶつかって、知って、励まされて、うちのめされて、そうやって、生きていこうと思えた。
川上未映子さんの「すべて真夜中の恋人たち」という小説も大好きで、今回夏物語で夏子と逢沢さんの関係性を見ていて、わ、わー!川上未映子さんだ!と思った。笑
熱烈な恋の描写があるわけじゃないのに、こんなにも恋愛。
わたしは川上未映子さんの文体が本当に大好きで、読んでいてこんなにもわくわくするリズムを持った文章はほかに無いんじゃないかってくらい。
最新作「春のこわいもの」は、買ったのにまだ読めていない。
でも、まだ読めていない川上作品が手元にあるこの幸せ!
ゆっくり時間をかけて読んでいけたら。