かんがえていること

かけがえ、といいます。エッセイ、日記や創作短文。

耳たぶが厚いからきっと

 耳たぶに穴のあいたわたしをあの人は知らない。
 恋人と別れて、その一週間後に訪れたのがピアスの穴あけに対応している美容クリニックだった。近くて、すぐに予約が取れて、口コミがよい──穴をあける位置の相談にていねいに乗ってくれるとか、院内がきれいだとか、そういう内容──ところを適当に選んですぐに向かった。口コミ通りきれいな受付できれいなお姉さんに、予約したハギノです、と告げるとスムーズに問診票といくつかの用紙を渡される。はい、はい、はい、はい。チェックを入れて名前を書いて返す。やがて名前を呼ばれてまずはカウンセリング室に通された。
 両耳ですね。はい。位置はどうされますか。特にこだわりはないんですが、標準的な位置でお願いできますか。そうですね、では……このあたり、でいかがでしょうか、だいたいこれで左右均等になるかと。(お姉さんがマジックペンでわたしの両耳に点をつける)はい、これでいいです。
 淡々としたやりとりのあと、また待合室に戻り、やがてすぐに呼ばれて処置室へ入った。注意事項をいくつか言われながら耳たぶが冷たい消毒シートで拭かれる。音が大きいので驚かれるかと思います、と先生に言われる。はい(、驚く準備をします)。では。がしゃん!!!!!!!!!!!本当に大きな音がして実際に驚いた。痛みより音の衝撃のほうが大きかった。大丈夫ですか。はい、はい、ちょっとびっくりはしました。ですよね。(お互いすこし笑って)ではもう片方もいきますね。はい。(驚く準備)がしゃん!!!!!!!!!!!
 鏡を手渡され、のぞき込むとわたしの両耳にきらりと白いパールが光っていた。あけてもらってからしばらくの間つけっぱなしにする、いわゆるファーストピアスはなんとなくパールにしたいと思って、その取扱いがあったこともこのクリニックを選んだ理由のひとつだった。
 わたし、耳に穴があいたんですね。
 先生ははい、と無感情に答えた。あいたんだなあ、とより実感できる答え方だった。

 帰り道、じん、じん、とやんわり痛むパールを両耳にきらめかせながら電車に乗り、マスクの中で何度も、「知らないわたし」と声を出さずにつぶやいた。
 あの人に何度となく見られ、触れられ、福耳だねえ、とほほ笑まれた耳たぶにはもう戻らない。穴のあいたわたしの耳たぶをあの人は知らない。いまのわたしをあの人は。
 電車の窓の外、日が暮れつつある街に少しずつ明かりがついて、わたしの住む街ももうすぐそこに迫っている。もうきっとあの人が降りることはない駅。マツキヨがあってミスドがあって、この街にしかないものなんてわたしの部屋くらいしかないから、もうあの人が来る理由のない街。

 あの人の耳たぶには最初から穴があいていた。きみはあけないのと聞かれてこわいよと答えると、耳たぶが厚いからきっと痛いもんね、と笑われたことを思い出しながら、わたしは耳たぶに穴のないあの人を知らないのだなと思った。
 それにあの人の耳たぶの穴はこれからふさがるかもしれない。耳たぶの穴のふさがったあの人をわたしは知らない。耳たぶに穴のあいたわたしをあの人は知らない。穴があいたあと、またふさがってもそれはもう、あの人の知らないわたしの耳たぶ。穴なんてあけなくたって、もう、今のわたしもこれからのわたしもあの人が知ることはない、そんなことくらいわかっていたけど、それでも何か、小さくてもなにか、変わってしまわないことには。
 耳たぶの痛みがだんだんと強くなってきて、でも念のためにと渡された痛み止めは絶対に飲まない。耳たぶが厚いからきっと痛いもんね。頭の中で反芻する声。そうだね、たしかに痛いけど、全然平気。そうなの?強くなったね。頭の中で勝手に作りだした声。そうなの。強くなったの。きっと痛みもすぐに消えるし、いまはまだこうしてきみの声を作り出せてしまうけど、それだってすぐに、できなくなるよ。さようなら、こうしてすこしずつ。

2023年7月のふりかえり

テレワークで基本家の中にいる人間でも、こりゃあ、まずいぞ、と思うほど毎日暑い。

汗をかいてもすぐに拭けば嫌な匂いになりにくいというのを最近になって知って、だからできるだけすぐに拭くんだけど、少し歩いて立ち止まったらまた汗が吹き出してきて、拭いて、吹き出して、拭いて、を外出中何度もくり返して辛い。

夏の外出は辛くて嫌い。それにあの蝉の声が本当に嫌い。昔から、蝉の声がいくつも重なって頭の奥まで響くと「死」がよぎる。死にたくなるという意味ではなくて、ああこれが死だ、と"知っている"感覚になる。わたしはたぶん前世でうるさい真夏の昼間に息絶えたのだと思う。

とはいえなんとか頑張って東京への引っ越し準備を進めている。引っ越し先の物件が無事に決まった7月。

 

◇読んだ本

・死ぬまでに行きたい海 岸本佐知子(途中まで)

残像に口紅を 筒井康隆

・君のクイズ 小川哲

 

7月中には読み終えられなかった「死ぬまでに行きたい海」がとても良い。

以下、本の帯より。

そこで見たこと、聞いたこと。思い出したこと。

焚火の思い出、猫の行方、不遇な駅、魅かれる山、夏の終わり──。"鬼"がつくほどの出不精を自認する著者が、それでも気になるあれこれに誘われて、気の向くままに出かけて綴った22篇。行く先々で出会う風景と脳裏をよぎる記憶があざやかに交錯する、新しくてどこか懐かしい見聞録

わたしは思い出を保存しておく容量が少ないので、こういう、思い出を綴った文章にすごく心惹かれる。まだ途中までしか読めてないなかでだけど、一つ目の「赤坂見附」が好き。

 

◇塗った爪(セルフネイル)

塗ったんだけど全然写真に収められていない。ふりかえり日記のたびに後悔。

塗った覚えがあるネイルポリッシュをメモ。

・rihka coussinet

・LUNASOL  DayDream

もっといろいろ塗ったのにもう覚えてすらいない。ごめんね。

 

◇できごと

・映画「us」を観た

NOPEを見てから気になっていたusを友達と観た。

前半、"ヤツら"に襲われるシーンが特に好みだったけど、結末もいい具合にいや〜な終わりで全体的に良かった。体調の悪いときに見る悪夢が映像化されたような場面が多くてテンションが上がった。

・映画「メタモルフォーゼの縁側」を観た

もともと原作の漫画が好きで、アマゾンプライムに追加されたので早速観たらあまりにも良くて、そのあとすぐ母親に勧めてじゃあ一緒に観ようということで2回観た。

邦画の繊細な描写の良さが十二分に活かされた作品だったと思う。わたし自身BLは大好きで、過去に二次創作で同人活動をしていたこともあったので、映画を観ながらその頃の気持ちが胸に鮮やかに蘇った。ああ楽しかったな、またやりたいなとふわふわ思った。

・映画「エスター ファースト・キル」を観た

これもアマゾンプライムに追加されてすぐに観た。

1作目が良すぎたのでどうかな・・・と心配したけど杞憂だった。あっそうくるのね?!という展開、そこからの攻防は最早コメディのようで、ホラーってエンタメだよなあと感心した。

当時子役でエスターを演じた女優さんが時を経てまたエスターを演じるということで、身長差を埋めたりするためにいろいろと工夫して撮られたというのを事前に知っていたのでそこにも感心した。

カプリチョーザに3回行った

愛してやまないカプリチョーザが45周年を迎え、7月は毎週木曜に看板メニューのトマトとニンニクのパスタが450円になるということで、3回行った。カプリチョーザ。2歳で出会ってからずっとわたしの中で一番大好きな外食チェーン店。

味がいいのは勿論、どの店舗に行っても接客が良い。本当に気持ちよく滞在させてくれる。食後のサービスのルイボスティーは幸せの味。わたしのお気に入りメニューはライスコロッケと「たらこの大葉のクリームソース」のパスタだったのだけど、このパスタが最近リニューアルされてイカやアサリといった魚介が入るようになってさらに美味しくなった。えっここへきてまだ進化してくれるんです?!と度肝を抜かれた。カプリチョーザ。慢心せず前に進み続けるその姿勢、見習わなくてはならない。愛してる。店員さんたちが着ているあの45周年Tシャツかわいすぎるんですがグッズ化して売ってくれませんか。お願いします。愛してる。

TASAKIのピアスを買うか迷って辞めた

danger plus Earringsの実物を見る機会があり、あまりの可愛さに心を奪われた。しかし37万円。ボーナスが出たとはいえ、東京への引っ越しでお金がかかることなどが頭をよぎり泣く泣く断念。ああいま思い出してもかわいかったなあ。冬のボーナスで買えたらいいなあ、いや、37万円・・・

・レストランのテラス席でBBQをした

テラスのあるレストランに夏に行くとよく見かける、テラス席でBBQをしている人たち。今まで、暑いんだろうな・・・とか、虫多いんだろうな・・・とかとにかくマイナスなイメージしかなかったテラスBBQになんと誘われる機会があり、いつもなら断るところだがわたしの転居前にと企画してくれたものだったので断れるわけがなく、参加することとなった初テラスBBQ。

暑かった。虫、多かった。しかしそれ以上に、楽しかったし美味しかった!!外で飲むビールがあんなに美味しくて、外で焼いて食べる肉があんなに美味しいなんて。まだまだ世の中知らないことだらけだなと反省。チャレンジの人生にしたい。

・Juice=Juiceのライブに行った

オリックス劇場で行われた大好きなJuice=Juiceのライブへ。改めてわたしの最推しは遠藤彩加里さんだと実感。新メンバーの川嶋美楓ちゃんの初ステージという記念すべき日、初々しくも既に頼もしさすらあるパフォーマンスに感激した。これからのJuice=Juiceも楽しみ。

・東京に物件の内覧に行った

東京に住む妹に付き添ってもらい、2日間かけて内覧ツアーを決行した。炎天下歩き回ってめちゃくちゃ体力を削られたけど、納得のいく物件を最終的に選ぶことができてよかった。あとは引っ越すだけ。荷造り、とても苦手なので憂鬱。でも新しい街での生活の解像度が自分の中でぐっと上がって楽しみが増した。

雲一つない青空、暑すぎる朝の東京タワー。この日スカイツリーの近くにも行ったのでコンプリートだ!とはしゃいだのだけど写真を撮り忘れた。

・日本酒で二日酔いした

お酒は好きだけど強くはなく、普段あまり量を飲まない方。だけど友人に教えてもらった大好きな日本酒があって、それを出してくれるお店に行ったので、100mlを3杯飲んで久々に二日酔いした。

長野県のボーミッシェルという日本酒。日本酒というよりもはやジュースみたいな。日本酒にしてはアルコール度数も低めだったけどそれでもわたしには相当強かった。翌日は使いものにならず一日中寝て過ごして、こういうの久々だなーとすっぴんメガネ顔色激悪の顔を鏡で見て笑った。

 

7月は暑さに負けそうになりながらもなんやかんやといろいろエネルギッシュに動いたな、とふりかえってみて思った。飲み会が多くて体重は増えたけど、そのおかげで人にたくさん会えていい月だった。

大阪は地元なので仲のいい友達が多くてやっぱり楽しい。新しい街ではここまでたくさん友達はできないと思うけど、それでも少しずつでも輪を広げられたらと思う。と言いつつ、大阪にいる友人の何人かがこのタイミングで転職やなんやで東京に行くかも、なんて話が出てきていて大喜びしている。わたしはつくづく運が良い。

2023年5・6月のふりかえり

振り返れなかった5月をあきらめず、6月とまとめて振り返る。

なんだか脳がずっと動いて慌ただしかった。ただとても楽しくて充実していた。

主に旅行、特に初海外。イエベ春→イエベ秋への転生。推しのバラードライブでの号泣。声出し解禁ライブ初参加。そして急な転勤の決定。

季節の変わり目恒例の長引く風邪にもやられ、忙しくしているとき以外はほとんどベッドの上にいた。

 

◇読んだ本

・往復書簡 初恋と不倫:不帰の初恋、海老名S A/カラシニコフ不倫海峡 坂元裕二

ちゃんと読めたのはこの1冊くらい。あとは少し読み始めて止まってしまっている。

坂元裕二さんの書くいい意味で日常っぽくない会話が好きで、それを文字で追うのも良いものだなと思った。これは手紙という形だったけど見事な会話劇だった。

 

◇塗った爪(セルフネイル)

友達に借りたTHREE 122 CIRCLE  OF STARS

おしゃれな色味がとても良かった


こちらも友達に借りたsundays 33 ティールブルー

こんなこっくりした青を塗ったのは初めてでテンションが上がった

ちなみに、友達にはPOMUMのoviraptorとrom&ndの09 AMBERを貸した。

長くて形のいい彼女の爪によく似合っていた。

 

osaji めのう

おしゃれなシアー感がお気に入り

 

おまけ GWに帰省してきた妹の爪を塗った

osaji接触、THE POLISH.スミレ、あともろもろを使ったアレンジ。

とても喜んでくれて、トップコートを塗り重ねるなどしてずいぶん長い間保たせてくれたそう。嬉しい。

 

◇できごと

・PC顔タイプ骨格診断を受けた

昨年の春にも一度診断を受けていて、そのときは1stイエベ春2ndブルベ夏との結果だった。

多幸感あふれるイエベ春メイクはそれなりに似合うものの、深い暗い渋いブラウンのリップを塗ると顔がめちゃくちゃぱっと明るくなってこなれ感が出るのはなぜ?という疑問があり、ついでに受けとくか〜と顔タイプ・骨格の診断もついたセットを受けた。

結果、1stイエベ秋2ndイエベ春、黄味とくすみが大得意などイエベに転生。夏もまあいける。冬はいちばん無し。やっぱりなあという気持ちと、普段の自分のカジュアルめな服装にはしっくりくる診断結果で、何よりくすみがいけるというのが嬉しすぎて浮かれた。

顔タイプは自己診断フェミニン→結果フレッシュ。曲線要素も直線要素も両方あるということだがどちらかというと直線で子供顔とのこと。やっぱり自己診断はあてにならないなと実感。骨格は予想通りのウェーブだった。

診断後それまで着てこなかったワイドパンツを買ってみたらものすごくしっくりきたり、勧められたルナソルのアイシャドウパレット ダージリンキャメルを買ってみたらびっくりするくらい盛れたりと、おしゃれをする楽しさが増した。これまでのお気に入りのイエベ春向けコスメたちも引き続き愛でるけど、イエベ秋フレッシュな自分にどんどん出会えていっている。診断の良さはここだと思う。

・倉敷に行った

春にも一度出張で訪れ、そのとき大好きになった岡山・倉敷。また出張が入ったのでうきうきで来訪。初夏の倉敷も爽やかで、緑が青空によく映えて良かった。白鳥の赤ちゃんたちがかわいすぎた。

RuRu Ballad大阪公演に行った

大好きな段原瑠々ちゃんのソロバラード公演が大阪でも開催されるということで駆けつけた。1曲目の歌うたいのバラッド、1フレーズであまりにも美しい歌声に涙腺が決壊し大号泣。会場は狭めなうえとても近い席だったので瑠々ちゃんからもひいひい泣いてるわたしが見えていて(オタクの妄想かも)、眉を下げた優しい表情を向けてくれた(オタクの妄想かも)のがまたさらに泣けた。歌に心を震わされて出る涙は気持ちよかった。

・Juice=Juiceの声出しライブに行った

ハロプロのライブに行き始めたのがコロナ禍に入ってからだったので、初めての声出しライブ経験。すごかった。すさまじかった。楽しさがこれまでの比じゃなかった。動画で見てきたコールを実際にやる興奮、推しの名前を声に出して呼べる喜び。当然だけどKAT-TUNのライブでの声援とはまた全然違っていて、男性が多いので迫力があるのは勿論、おい!おい!のコールが個人的には新鮮で楽しかった。メンバーも楽しそうで良かったな。ライブを観に行けて「楽しい」のはコロナ渦中も勿論あったけど、ライブではしゃげて「楽しい」のは久しぶりだった。

・韓国に行った

初めての海外旅行は韓国になった。色彩鮮やかな国だった。

気の合う友達が誘ってくれて実現。少し歳下の彼女とは行きたい場所ややりたいことの方向性がとても近いので、いつも遊ぶ日は朝から晩までコースで楽しみ尽くしている。大人になってからできた数少ない気の置けない友達。しっかり者で、事前の予約やら必要な手続きの準備やら、わたしの苦手分野を全部引き受けてくれて頭が上がらなかった。

楽しみすぎて1週間前に体調を崩し、やや微熱の残ったまま臨むことになってしまった韓国旅行だったけど行ったら楽しすぎて体調も戻った。日本と文化が近いので街の雰囲気も似ていて、だけど文字が読めないし言葉が聞き取れない、パラレルワールドに迷い込んだみたいな不思議な感覚だった。カルグクス(うどんのようなもの)、マンドゥ(餃子のようなもの)、ポッサム(茹で豚のサムギョプサルみたいなもの)・・・食べたものがどれも最高に美味しかった。それもこれも全部お店含め色々とリサーチをしていてくれた彼女のおかげ。

3泊4日、なんと3日も仕事を休んでの贅沢な旅行だった。連日2万歩以上歩いてくたくたになりながらも、大満喫の初海外旅行だった。また行きたい、韓国。

尾道に行った

これも出張で。物心つく前に行ったことがあるらしいが記憶は全くなく、初めての尾道だった。出張のついでだったのと、天気が悪かったこともあり2時間程度しか滞在できなかったのだが、富士フイルムのクラシックネガで撮るのにぴったりの風情ある街並みに夢中になった。名物尾道ラーメンを堪能して帰宅。7月中にもう一度行く機会があるのでそのときには千光寺に登ってみたいし、尾道でのんびり生きる猫に出会いたい。

・東京に転勤が決まった

突然の話だった。まあこういうのは突然くるものである。

この夏が終わったら東京に引っ越すことになった。今の感情としては寂しさ4、喜び6くらいの割合。やや喜びが勝っている。というのも、ずっと関西を出たことがなく、いつか東京で暮らしてみたいなというぼんやりした思いがあったのだ。けどそうするには今の安定した仕事を辞めるしかないんだろうなと思うとなかなか踏ん切りがつかず、とはいえ変わらない環境にやや飽き始めていたときに、降って沸いた話だった。ラッキーだ、と素直に思った。

ただ関西にいる両親や友達には気軽には会えなくなるのでそれが寂しい。それから、家探しを始めつつあるけれどどうにも家賃水準が高すぎる。暮らしが立ちゆくのか不安。

 

旅行やらの写真は随時Instagramに投稿しているのでよかったら見てください。@mmeerciii

 

ということで東京転勤のことでてんやわんやな現在。

家が決まらないことには気持ちが落ち着くことはなさそう。内覧も1日にまとめないといけないし色々と予定を立てていかなくちゃいけないんだけど、この予定を立てるのが苦手なので億劫。東京でいろんな街に出掛けて写真を撮る楽しみを糧に乗り切るしかない。

2023年4月のふりかえり

案の定もう5月に入って10日も経ってしまった。

でもまあ、多分そうなるだろうなという予感はあった。何せ4月末から5月はじめはゴールデンウィーク。楽しい予定を詰めに詰めたわたしがいったいどこで4月をふりかえる余裕を持てただろうか。

と開き直った言い訳から始める4月のふりかえり。温かい日と寒い日が交互に訪れるようで身体に悪い日々だった印象。

 

◇読んだ本

「たゆたえども沈まず」原田マハ

無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記」山本文緒

「犬のかたちをしているもの」高瀬隼子

やや読書量の少なかった月。特に印象に残ったのは「たゆたえども沈まず」。

ゴッホと彼を支えた弟、そして日本の画商ふたりの運命が絡み合う壮大なストーリー。ノンフィクションとは思えず彼らの人生に思いを馳せて切ない気持ちでいっぱいになった。

そんなタイミングで、兵庫県立美術館ゴッホアライブという没入型展覧会(公式の表記)が開かれるということで友人と行ってきた。

会場にいくつも設置された大きなスクリーンに映像が映される。ゴッホの絵画が次々に投影され、描かれた人や風景が動いたりするのが面白かった。クラシック音楽に合わせてテンポ良く映像が切り替わる。なるほど没入型、と納得し感動したのが特に風景画。ゴッホが実際にその絵を描いた目線と同じに見えるようにとおそらく計算して映像が作られている。ああ、これがゴッホの目だ。ゴッホが見た景色だ。ゴッホには世界がこんなにも眩しく鮮やかに見えていたのだ。なのに……と、原田マハさんの小説の内容を思い出しながらぐっと胸が熱くなった。

夏には大阪で同様の展覧会が開かれるそうだ。今度は印象派画家にスポットが当たったものになるらしい。モネ、ドガルノワール。きっとまた原田マハさんの小説を読んでから行く。

 

◇塗った爪(セルフネイル)

osaji 忘れないで

このグレーが好きすぎて使い切るのが嫌でなかなか塗れない

osaji 盃×POMUM salt

盃のざらっとした質感は大粒のラメとよく合う

rihka rose

わたしの爪だとミルキーコーラルに発色し、ピンクラメが控えめに瞬いてほんとうにかわいい。なんていうか、少女の爪になる。爪だけ。

これ以外にもいろいろと塗った気がするけど写真を撮っていなかったので忘れてしまった。

ちゃんと写真を撮っておけばよかった、とも思うし、撮らなかったということはそんなに気に入らなかったということなのでまあいいかとも思う。

と書きながら、そういえば今塗っているネイルも写真を撮っていないうちにすっかりヨレてしまったな、と思った。そしてわりと気に入っていた。4月もこんなことが多かった気がしてきたので、ちゃんと塗ってすぐに写真を撮ろう。

 

◇できごと

・谷小夏さんの個展に行った

亡くなられたおじいちゃんに会う夢を描いたというイラストたちをどうしても見たかったので、行けてよかった。ふしぎでちょっと不気味で、どこか寂しいような気持ちになる作品たちだった。引き込まれた。ご本人もいらっしゃったけど緊張して声はかけられず。作品集dormiを買ったときにおまけでもらった、個展会場になっているカフェ?のキラキラシールがかわいかったのでiPadに貼った。

KAT-TUNのライブに行った

小学生の頃から亀梨和也さんのファンで、毎年ライブに行っている。情報を収集したりドラマやテレビを見たりするのが得意でないのであまり熱心なファンとは言えないかもしれないけど、来世は亀梨和也になりたいと思っている。生きざままでも美しい彼はわたしのロールモデルだ。トロッコが目の前を通る席であまりにも目がバチコーンと合ってしまって寿命が延びた。いや、わたしの寿命はいいので亀梨和也さんの寿命が永遠になってください。

・プヂンを食べた

ブラジル風プリン、プヂン。コーヒーの染み込んだスポンジの上に固めのプリンが乗ったケーキ。あんまり美味しくてびっくりしてスマホで撮った一枚。すでにひと口食べたあと。

・選挙の投票に行った

ちゃんと行った。ちゃんと行かないと自分のことを嫌いになってしまうので行くようにしている、という理由がいちばん大きい。外食はほぼ毎日しているがこの日も外食した。

・秋田に行った

ANAのセールのおかげで非常に安く秋田へ飛べたので、長年会えていなかった友人に会いに行った。確か8年ぶりの再会、とかだったと思うがそれまでにも毎月ビデオ通話したりしていたのであんまり久しぶり感なくぬるっとした再会となった。

比内地鶏、秋田牛、きりたんぽ、稲庭うどんと美味しいものをひたすら食べた。秋田犬は大きくて愛おしかった。

何より素晴らしかったのが角館の桜。武家屋敷の枝垂れ桜、川沿いにどこまでも続くソメイヨシノは圧巻だった。開花が例年より早まってくれたおかげで奇跡的に見られたのでラッキーだった。

・髪を切った

一度短くすると次はもっと短く、とどんどん短くなっていく。でも流石に顔の丸さが目立つなと思ったので次は長めにする。したい。どうか短くしたい衝動に打ち勝ってほしい、次の美容院のときのわたし。

 

やっぱり秋田旅行が心に残った4月だった。カメラはどんどん楽しくなっていく。どこへ行くにも首に下げていてちょっと肩こりがひどくなった。

5月も早速色々と良い写真を撮れていて、随時Instagramに投稿しているのでよかったら見てください。@mmeerciii

 

3月に贅沢をしすぎて太ってしまったので4月はYouTubeの40分ある筋トレ+有酸素運動動画を週3〜4回やるようにしていたが体重は変わらなかった。つまりそれだけ4月もよく食べた。なんとか痩せたいので5月も諦めずに運動を続ける。あと、ちょっとだけおやつを減らす。

2023年3月のふりかえり

よく見かける、その月のふりかえりブログというのを始めてみる。

気になったことはなんでもすぐにやってみる行動力がわたしの売りである。

 

◇読んだ本

 

「こちらあみ子」今村夏子

「キッチン」吉本ばなな

「黄色い家」川上未映子

「他人の家」ソン・ウォンピョン

 

ずっと読もうと思って読めていなかった本、ずっと発売を楽しみにしていた本。

そんな本たちをようやく読むことができたのでよかった。

 

特に川上未映子さんの最新長編「黄色い家」は凄まじかったな。

あんなに癖があるのに、リズムが心地よくて読みやすい、川上さんの美しい文章。

悲痛なストーリーがしっかり重く書き上げられていて、なのに爽やかさすらある読後感を与えてくれる「黄色い家」は、万人に、というよりは読書好きにこそお薦めしたい一冊。

 

ほかの本も含めた感想はInstagramに読書記録として載せていますのでもしよかったら。@mmeerciii

 

◇塗ったネイル

 

ポリッシュ派でセルフネイルを月に何度か塗り替えている。

今年の目標はもう新しいポリッシュを買わないこと。今手元にあるものを愛せていないことが苦しいと思うようになった。

 

春のアレンジ rihka mint teaが主役

 

ゴールドのネイルシールを使ったアレンジ

 

POMUM oviraptorを使ったアレンジ

 

妹のブライダルネイルをお揃いに ネイルエス mashmallow taffy,jem stone

 

ぎらぎらグリッター詰め POMUM salt,beryl

 

やっと出会えた理想の水色 ducato oborokumo

 

一番好きなアレンジ ラベンダーにラディアントムーン

 

春の柔らかい陽射しに合う、穏やかなカラーを選ぶことが多かった。

まだ寒い日も多くて、爪だけでも春らしいとそれだけであったまるような心地がした。

 

と、ここまでを4月の初めに書いていて、はてなブログで写真を記事のなかに差し込む方法がよくわからず頓挫してしまっていた。

よくわからず、というより、よくわからなかったけど調べるのも面倒だな、と思ったらもう途端にやる気が失せてしまっていた、というほうが正しい。

でもせっかくなのでやっぱりブログ記事として残しておきたいなという気持ちが芽生えたので、その気持ちがまた面倒くささに負ける前に書き切っておく。

残しておきたいなと思ったのは、この3月が30歳の誕生日を迎えた月だったから。だからどうということでもないけど、特別だと思うのは自由なので特別な3月。

ほかにも特別なイベントはいくつかあったので箇条書きしておく。

 

・京都で着物レンタル体験

フリルとレースまみれの趣味爆発スタイルがなんとも幸せでそのまま着て帰りたかった。着付けを習ってみたいなと思った。

 

・妹の結婚式

大好きで大好きな妹の結婚式。きれいに晴れて気持ちのいい日曜日、すてきなレストラン兼結婚式場での式だった。妹の晴れ姿に、というより、これまで準備を頑張っていた姿を思い出して泣いた。この日のために新調したドレスは人生で一番盛れた。

 

・パスポート取得

5月末の韓国旅行が人生初の海外旅行になる。パスポートを作りに行った。スマホで証明写真が撮れるアプリで何度も何度も撮り直して唯一マシかなと思えたものを印刷して持って行ったら輪郭が違うと言われて結局駅の証明写真機で撮った。ら、すごく盛れた。ただ服はスウェットだったし、茶色い花のピアスを着けてたし、リップは鮮やかすぎるオレンジだった。10年間このお写真になります、と言われてちょっとなあ、と思いはしたもののそれでいいですと答えた。

 

4月の振り返りは4月の終わりに書いて、5月の初めに投稿したい。わたしの人生の記憶がどこか薄いのは、振り返ることをあまりしてこなかった人生だからだと思う。

 

 

どうしても会って話さなきゃならないことなんて。─「デートクレンジング」柚木麻子

結婚した女友だち。子どもを産んだ女友だち。
独身のわたしからすると、気軽に会おうとは言いづらいというのは事実で。
それは「会いたくないから」ではないのだ、断じて。
彼女たちには家庭がある。新婚だったり、幼い子どもを育てているような状況なのだと思うと、その貴重な時間をわたしと会うことに使わせてしまうのがどうしたって申し訳なくて。
わたしが彼女に、どうしても会って話さなきゃならないことなんてない。
また落ち着いたら、また折を見て、また・・・
そうやって先延ばしにしていって、気づいたら疎遠になってしまっていたりする。
ふ、と思う。
あの頃。わたしが彼女に、彼女がわたしに。
「どうしても会って話さなきゃならないことがあるから、会おう」と言ったことなんてあったっけ。

「デートクレンジング」柚木麻子

画像

以下、Amazonのあらすじから引用。

「私にはもう時間がないの」
女を焦らせる見えない時計を壊してしまえたらいいのに。

茶店で働く佐知子には、アイドルグループ「デートクレンジング」のマネージャーをする実花という親友がいる。
実花は自身もかつてアイドルを目指していた根っからのアイドルオタク。
何度も二人でライブを観に行ったけれど、佐知子は隣で踊る実花よりも眩しく輝く女の子を見つけることは出来なかった。
ある事件がきっかけで十年間、人生を捧げてきたグループが解散に追い込まれ、実花は突然何かに追い立てられるように“婚活"を始める。
初めて親友が曝け出した脆さを前に、佐知子は大切なことを告げられずにいて……。

自分らしく生きたいと願うあなたに最高のエールを贈る書下ろし長編小説。

柚木さんの小説を読んだのは「BUTTER」以来。
柚木さんの描く女性、に限らず、登場人物たちはみんな、危うげでたくましく、眩しいほど素直で愛おしい。
最初大人しくて気弱かと思った主人公・佐知子も、中盤からどんどん「えっ?!そこまで言っちゃうの?!」とハラハラさせられるほど真っ直ぐに、実花やその周りの人物に切り込んでいく。
その原動力は、「好き」の気持ち。

“女を縛る呪い“と同じくらい、この物語のキーになっているのが“オタク”。
佐知子の親友・実花はアイドルオタクからアイドルグループのマネージャーになった人物で、その熱狂ぶりに佐知子は圧倒させられていたと同時に、憧れを抱いていた。
佐知子はやがて、自分は実花のオタクなのだ、と自覚していく。

佐知子の推しは、揺るぎない信念を持ち仕事に打ち込むかっこいい実花。
婚活のために服装を変えたり、自分を卑下するようになったり、同じく婚活に励むライターの芝田(この人も、どうにも憎めなくて応援したくなってしまうキャラクターなんだよなあ・・・そこがすごいなと思った、柚木さん)から言われ放題なのに嬉しそうだったりする実花の姿に佐知子はショックを受ける。
既婚の佐知子と独身の実花。二人はステージの違いからすれ違っていくのだけれど、オタクならではのパワーで、佐知子は実花を諦めない。

この小説の面白さを底上げしているのが、なんと言っても、アイドルやそのオタクたちの描写の解像度の高さ!
なんでも柚木さん自身がハロプロファンとのことで、同じくハロプロファンのわたしはとっても驚いて、そしてとってもとっても納得した。
物語終盤、デートクレンジングのメンバーだった春香のファンイベントでのライブの描写がもう、引き込まれるというか、その情景がありありと浮かんで、あの熱気が肌に迫ってくるような感覚をおぼえるくらいなのだ。

誰もが春香を見つめ、その名前を呼んでいる。彼女はこの場に君臨し、空気を圧倒していることが、楽しくて仕方がないといった様子だ。大きな瞳が三日月になって光っている。親しみやすさは完全に消え、春香はもはや、ここにいる大人たちをかしづかせ、五万二千円を完全に忘れさせる、ピンク色の暴君だった。

佐知子は今、ここにいるすベてのファンと興奮と奇跡を共有している手応えを、ひしひしと味わっていた。今までの困惑も寂しさも溶けていき、ピンクの光に吸収されていくのがわかる。

このメロディが永遠に終わらなければいい。曲が最後の間奏に入って、佐知子は泣きそうな気持ちで願う。このまま、踊る三人をずっとここで見つめていたい。ピンクの光に吸い込まれて、このまま消えてしまってもいい。それならそれで本望だ。

こんな一瞬のために、アイドルも、ファンも、部外者と呼べなくもない佐知子も、日々を生きていけるのかもしれない、と思った。奇跡はいつでも起こせるわけではない。ずっとスポットを浴び続けていられるのは、ごくひと握りだ。それでも──。

この怒涛の文章たち。アイドルのライブに足を運び、そのパフォーマンスに熱狂したことのある人であればみんな、ぐっとくるものがあるのではないかと思う。
わたしはオタクの文章が大好きで、オタクたちが推しへの熱い思いをしたためた長文ブログを読むと目頭が熱くなってお酒を飲みたくなる性分なのだけれど、それと同じ感傷を覚えた。
しかしまあ、ライブへ行ったときのあの感覚をここまで鮮やかに描写されるとは。素晴らしすぎる!

さて、佐知子と実花、二人の関係がどうなっていくかはぜひ小説を読んでほしいところ──なのだけれど、あまりにも好きすぎてここで引用したい、本文中の二人の会話がある。

「ファンって難しいよね。好きなもののそばに寄りすぎてもいけないし、遠すぎると切なくなっちゃう。私、自分がよければ、実花が私をどう思っててもいいやっていう、あなたの一途なファンにはどうしてもなれないみたいなんだ。やっぱり必要とされたいし、必要としたい。そうじゃないと、すごく寂しいよ」
「それ、当たり前だよ。だって、うちら、友達じゃん。必要とされなかったら私も悲しいよ。実を言えば、さっちゃんが結婚した時、和田さんに嫉妬したよ。『ミツ』にすっかりなじんでいる時は、お義母さんに嫉妬した。さらに、さっちゃんがお母さんになったら、もう今度こそ、私の出る幕なんかないと思って焦った。私がさっちゃんにできることなんて、なくなった気がしたんだよ。でも、私は私で、これまで身につけた何かを使えば、きっと力になれる部分もあるはずなんだよね。やってみる前から、なーんであきらめてたんだろう」

もうここを読む頃には、涙が溢れて大変だったのだけど、さらに泣かされたのがこの会話だった。
そうなんだよね。そうなんだよねえ。
わたしたち、必要とされたいし、必要としたい。
結婚したからって、独身だからって、子どもができたからって、仕事にやりがいを感じてたって、わたしたち分断される必要なんてない。
疎遠になってしまったあの子やあの子の姿が脳裏に浮かんで、ああ、これを読み終えたら連絡したい、できるかなあ、いやする、絶対!と思いながらただただ泣いていた。

どうしても会って話さなきゃいけないことなんて、ないかもしれない。
けど、会いたいよ。
あなたもそう思っていてくれたら、すごく嬉しい。


今回わたしは図書館で借りたこちらの小説、改題して文庫化もされたとのこと。
単行本の表紙イラストを担当されている北澤平祐さんのファンとしては、買うなら単行本だなあ〜!
値段が張っても、場所を取っても、それでも買うなら北澤さんイラストの単行本。
この気持ちも、オタクならではなのかもしれない。

自分の子どもに会ってみたいというゆめ、エゴ、祈り。─「夏物語」川上未映子

子どもを産む予定は今のところない。だけどいつか、自分の子どもに会ってみたい、という漠然とした思いがある。
自分の子どもに会ってみたい。これを言ったのはわたしの母だった。
母は子どもがあまり得意ではなくて(なのに、そのことに自分で気づかず昔は保育士になるつもりで勉強をしていたらしい)、それを知っていたからこそ、じゃあどうしてわたしを産んだの?という疑問が浮かんで、聞いたときに返ってきたのがこの答え。
自分の子どもに会ってみたかったから。
シンプルな答えだったからこそ、印象に残った。母はわたしと妹のふたりを産んで、無事(?)自分の子どもに関してはかわいい!と思ってくれたそうで、楽しく、ときに厳しく、ていねいにわたしたちを育ててくれた。
そんな母のことがわたしは大好きで、この人の娘に生まれてきてよかったと心から思う。母が自分の子どもに、わたしに会いたいと思ってくれて、よかった。
わたしは、わたしの子どもに、いつか会うのだろうか。

「夏物語」川上未映子

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わたしが愛してあこがれてやまない、川上未映子さんの長編小説。
読書記録の最初は川上未映子さんの本にするって決めてた。ふふ。

以下、文庫本裏のあらすじを引用。

大阪の下町で生まれ小説家を目指し上京した夏子。
38歳の頃、自分の子どもに会いたいと思い始める。
子どもを産むこと、持つことへの周囲の様々な声。
そんな中、精子提供で生まれ、本当の父を探す逢沢と出会い心を寄せていく。
生命の意味をめぐる真摯な問いを切ない詩情と泣き笑いの筆致で描く、全世界が認める至高の物語。

読書感想文や本の紹介、というつもりではなく、読書の記録なので、わたしが印象に残った部分や思ったことをただ思いのままに書いていこうと思う。

物語の主人公・夏子は、わたしの母と同じ思いを持っていた。
自分の子どもに会いたい。
もともと大好きな川上未映子さんの読み応え抜群の長編小説とあって、もちろん読むつもりではいたけれど、あらすじを読んでこの言葉が目に入ったとき、ぐっ、と、なにか引き寄せられるような、不思議な感覚を覚えた。
読まなくては、読んでいいのか、読むべきなのか、読みたくない、読みたい。
よく分からない葛藤で心がざわざわして手に取ることができず、発売されてからずいぶん経って文庫本が発売されたころ、ようやくこの小説を読むことができた。
読んでいる間は楽しさの中に苦しみもやっぱりあって、だけど読み終わったとき、この本に出会えてよかった、と、心から思った。

主人公は小説家の独身女性・夏子だけれど、物語の中には夏子だけでなくさまざまな境遇の女性たちが出てくる。
それぞれの立場や置かれている状況、考えに、涙が出るほど共感することもあれば、今まで想像もしたことがなかったとはっとさせられたり。

第一部、夏子の姉・巻子の娘である小学生の緑子が、ノートにたくさん書き記している言葉たち──身体の変化に対する不安や嫌悪、貧乏な母子ふたり暮らしの中で水商売をしながら自分を育てる母への思いには、何度も涙が出た。特にぐっときたのはこの文章。

わたしは勝手におなかが減ったり、勝手に生理になったりするような体がなんでかここにあって、んでなかに、とじこめられてるって感じる。んで生まれてきたら最後、生きて、ごはんを食べつづけて、お金をかせぎつづけて、生きていかなあかんのは、しんどいことです。お母さんを見ていたら、毎日を働きまくっても毎日しんどく、なんで、と思ってしまう。

そして物語が第二部に進むと、冒頭、夏子が酔っぱらって書いたメモが出てくる。
この夏子の思いが物語の主軸になっている。

これでええんか 人生は
書くのはうれしい ありがとう人生の
わたしの人生に起こった
素晴らしいできごと
でもわたしはこのままいくんか ひとりでよ
このままずっといくんかまじで
淋しい と書けばほんまで嘘 でもそうじゃない
わたしはこのままひとりでいい

いいけど、わたしは会わんでええんか
わたしはほんまに
わたしは会わんでええんか後悔せんのか
誰ともちがうわたしの子どもに
おまえは会わんで いっていいんか
会わんで このまま

自分の子どもに会いたい。性行為ができない夏子は精子提供による人工授精について調べ始め、さまざまな人との出会いを通じて自分の思いと真摯に向き合っていく。
最後は読みながらずっと嗚咽するくらい号泣していた。
夏子が選んだ道が正しいのか、正しくないのかなんて、だれにもわからない。
ただ彼女は、たくさん考えて、悩んで、言葉にして、ぶつかって、知って、励まされて、うちのめされて──そうやって、自分で道を選んだ。
そのことにわたしはなんだか救われた心地がしたし、わたしはわたしの人生を、道を、これからもたくさん考えて、悩んで、言葉にして、ぶつかって、知って、励まされて、うちのめされて、そうやって、生きていこうと思えた。

川上未映子さんの「すべて真夜中の恋人たち」という小説も大好きで、今回夏物語で夏子と逢沢さんの関係性を見ていて、わ、わー!川上未映子さんだ!と思った。笑
熱烈な恋の描写があるわけじゃないのに、こんなにも恋愛。
わたしは川上未映子さんの文体が本当に大好きで、読んでいてこんなにもわくわくするリズムを持った文章はほかに無いんじゃないかってくらい。
最新作「春のこわいもの」は、買ったのにまだ読めていない。
でも、まだ読めていない川上作品が手元にあるこの幸せ!
ゆっくり時間をかけて読んでいけたら。